
コロナ禍で耳にするようになった「ニューノーマル」という言葉。なんとなく想像はできるけど、詳しく分からないという人もいるでしょう。今回は、ニューノーマルとはなにか、ニューノーマルな働き方とはどのようなものなのか、具体的な変化や求められるスキルについて解説します。
ニューノーマルとは?
ニューノーマルとは、New(新しい)とNormal(標準・常態)を組み合わせた言葉です。日本政府の発表資料などでは、「ニューノーマル=新しい日常」として使われています。
「ニューノーマル」という言葉の発祥
「ニューノーマル」の元々の言葉の由来は、1990年代から2000年代にかけてアメリカで起こったインターネット・バブルが崩壊した際の2003年頃のアメリカの状況を指して表現されたことが一番初めとされています。その後、2007年〜2008年にかけて起こったリーマンショックを含む世界金融危機における景気低迷の状態を指し「避けられない新たな常態」という意味合いで「ニューノーマル」という言葉が広がっていきました。
新型コロナウイルスとニューノーマル
そしてコロナ禍でみなさんが感じている変化、「Withコロナ時代の新しい生活様式」こそが、ニューノーマルだと言えるでしょう。新型コロナウイルスの感染拡大によって緊急事態宣言などが発出され、一人ひとりの日常生活に新しい習慣やサービスが根付くようになりました。
ニューノーマルで起きた変化
さまざまな変化が起きた、今回のニューノーマル。ライフスタイルと働き方について一つずつ見ていきましょう。
ライフスタイルの変化
新型コロナウイルス感染防止のために発表されたのが、「新しい生活様式」(※1)の実践例です。身体的距離の確保、マスクの着用、手洗い、の3つが基本方針として示され、私たちのライフスタイルに影響を与えました。
(※1)厚生労働省「「新しい生活様式」の実践例」
外出など他人と接触する機会の減少
「新しい生活様式」では、人との間隔を空けることや、会話をする際は可能な限り真正面を避けることなどが示されました。さらに、政府や自治体からの「不要不急の外出を控えてください」といった要請を受け止め、生活必需品の購入や通院などの必要最低限の外出に留めたり、友人や離れて暮らす家族と会う約束を控えたりした人も多いですよね。
在宅時間を快適にする消費行動の増加
家で過ごすことを表す「ステイホーム」、在宅時間を表す「おうち時間」という言葉も一般的になりました。消費行動にも変化があり、インターネットショッピングによる商品購入、有料動画配信サービスの利用など、いわゆる「巣ごもり消費」が伸びました。
特にインターネットショッピングの利用世帯の割合については、2020年3月以降に急速に増加し、2人以上の世帯の約半数以上が利用する状況が続いているというデータ(※3)もあります。
また、外食は控えたいけれど飲食店の料理を食べたい、好きなお店を応援したいというニーズの高まりから、宅配サービスが拡大しました。コロナ禍で初めて利用し、便利さに気付いたという声も聞かれます。
(※3)総務省「令和3年版 情報通信白書」
健康や美容に関する消費行動の増加
ライフスタイルの変化によって、健康や美容にかける時間や、それぞれの取り組み方が変わった人も多いでしょう。健康に関する変化としては、自宅で使用できるフィットネス器具を購入する、オンラインで参加できるヨガクラスに参加する、身体に良いと思われる食材をお取り寄せする、などが挙げられます。
美容に関わる変化では、「おこもり美容」という言葉どおり、通勤・通学などが減ったことによる空き時間を活かして、フェイスケアやボディケア、ヘアケアに力を入れる人も増えたと言われています。コロナ禍でますます増えたライブ動画などを参考にして、美容家電や化粧品を新たに購入した人も多いようです。また、マスク姿に合わせた新しいメイクを意識した人もいるでしょう。
働き方の変化
現役世代の人にとって最も大きかったのが、働き方の変化かもしれません。ニューノーマルの代表的な働き方が、テレワーク・在宅ワークです。テレワークとは、情報通信技術(ICT)の導入によって、時間・場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことです。主な形態として、在宅ワーク、モバイルワーク、サテライトオフィスの3つが定められています。
テレワークと同じような使われ方をしている言葉に、リモートワークがあります。「remote(遠隔)」「work(働く)」という単語の意味からも、場所に縛られない働き方として使われていることが多いようです。
テレワーク・在宅ワーク人口の増加
コロナ禍では、テレワーク・在宅ワークの導入が急速に進みました。東京都のテレワーク実施率調査によると、都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は、2021年の緊急事態宣言期間に65%(※4)まで増加したというデータもあります。
(※4)東京都「テレワーク実施率調査結果」
オンラインでの会議やミーティング、商談の増加
テレワーク・在宅ワークの実施に伴い、社員がそれぞれの自宅から参加できるオンラインでの会議やミーティングが拡がりました。また、それまで対面で行われていた商談も、感染リスクを抑えるためにオンラインで行うケースが増加しました。
このようなオンラインへの移行は、移動時間を削減し効率的に業務や営業活動を行える、営業範囲を拡大しビジネスチャンスを増やせる、などのメリットがあります。ニューノーマルにいかに対応していくかが、今後の企業の成長に大きく関わっていると言えるでしょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
経済産業省は2018年に「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(※5)」で、DX推進のための経営のあり方や仕組み、基盤となるITシステムの構築について公表しました。
特にコロナ禍では必要に迫られた各社でDX推進が加速し、職場ではペーパーレス化やオンラインでの営業活動、社内システムの改善が行われています。みなさんの職場でも、それまで紙でやりとりしていた契約書が電子契約書に移行したり、社内の各種申請がシステム化されたりといった変化もあったことでしょう。
(※5)経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」
ニューノーマルな働き方のメリット
ニューノーマルな働き方であるテレワーク・在宅ワークには、さまざまなメリットがあります。
ハイブリッドワークができる
ハイブリッドワークとは、テレワークとオフィスワークを併用する働き方です。実際に国土交通省の「テレワーク人口実態調査」(※6)では、テレワークの満足度について「大変満足・やや満足」が約64%、今後のテレワーク実施意向については「実施したい」が約82%という結果が出ている一方、「仕事に支障が生じる(コミュニケーションのとりづらさや業務効率低下など)」「職場にいないため、疎外感・孤独感・不安を感じた」といった声もありました。
ハイブリッドワークを利用することで、仕事の質を高めながら、より自分らしいワークライフバランスを実現しやすくなるでしょう。
(※6)国土交通省「令和2年度 テレワーク人口実態調査」
仕事の効率が上がる
実はテレワーク・在宅ワークの導入前、会議や雑用が多くて業務に集中しにくいと感じていた人も多いと思います。それらが減ることによる作業効率の向上や、早く仕事を終わらせる意識の高まり、さらには会社のDX推進によるシステム化によって、一人ひとりの仕事の効率が上がり、結果、チームや会社全体での成果にもつながると考えられます。
時間を有効に使える
国土交通省の「テレワーク人口実態調査」(※7)の居住地域別の通勤時間構成によると、首都圏の場合、30分以上が約73%、1時間以上が約34%となっています。テレワーク・在宅ワークを行うことで通勤時間の削減や、オンライン商談を取り入れることで移動時間の削減が可能になり、オンもオフも時間を有効に使えるようになります。
実際にニューノーマルな働き方によって、趣味の時間や家族と過ごす時間を増やすことができたという声も多く聞かれますね。
(※7)国土交通省「令和2年度 テレワーク人口実態調査」
ニューノーマルな働き方の課題
一方で、ニューノーマルな働き方には課題もあります。以前と同じような意識や取り組み方では、評価されなくなったり働きにくさを感じたりすることもあるでしょう。
自己管理能力が求められる
オフィスで働いてれば上司や同僚と同じ空間で働くことができるので、何かあれば声もかけてもらいやすいものです。しかし、テレワーク・在宅ワークでは、オンラインでの打ち合わせ時間以外は、一人で黙々と働くことになります。自分でいかに集中力やモチベーションを維持できるかがポイントになるでしょう。
コミュニケーションの取り方が変わる
特に職場でのリアルコミュニケーションが活発だった人ほど、最初は戸惑いを感じるかもしれません。オンラインの打ち合わせやビジネスチャットを活かし、コミュニケーションロスによる非効率やミスを防ぐようにしましょう。また、お互いにストレスを感じなくて済むように、丁寧なコミュニケーションを心がけることが大切です。
オンオフの切り替えが難しい
自宅で仕事をしていると、プライベートな時間との切り替えを難しく感じるかもしれません。それまでは通勤時間があることでメリハリをつけられていたという人もいるでしょう。仕事用のスペースを確保する、ダイニングテーブル・チェアではなく仕事用のデスクやチェアを使用する、休憩時間に軽く運動してリフレッシュするなどの工夫が必要です。
社員一人ひとりのセキュリティ対策が必要
これまで以上に、セキュリティ意識を高めなければ情報漏洩リスクなどが懸念されます。パソコン画面を覗かれないようにする、周囲を確認して電話をする、など注意しましょう。また、個人情報などの重要データのやりとりについては、社内ルールに則り、正しく取り扱わなければいけません。
ニューノーマル時代に私たちが求められること
内閣府「選択する未来2.0中間報告」(※8)では、「新たな日常(ニューノーマル)の実現に向けて、日本社会を10年分前進させるような社会変革を一気に進めていくことが求められる」と書かれています。つまり、ニューノーマルに対応することは、未来への大きな一歩になるのですね。それでは、ニューノーマルに対応するために必要な力とはどのようなものでしょうか。
(※8)内閣府「選択する未来2.0中間報告」
変化への適応能力
私たちは、時として変化を恐れてしまうことがあります。ですが、変化に適応することができれば、新しい発見と自分自身の成長機会を得られるでしょう。適応するポイントは、変化後のメリットを想像し、「できる」「やってみよう」とポジティブに受け止めることかもしれませんね。
自己管理能力
ワークライフバランスを充実させるためにも、自己管理能力が求められます。自分の思考や心身の状態、強みや弱みを理解し、ニューノーマル時代を生きるための自己コントロールを習慣付けましょう
コミュニケーション能力
コミュニケーション方法が多様化するからこそ、それぞれの場面に合ったコミュニケーションが求められます。対面や電話に比べて、相手の様子を感じ取りにくいチャットなどでのコミュニケーションでは、特に丁寧なコミュニケーションが求められます。
情報収集能力
変化が大きい時代だからこそ、自分でスピーディーに情報を取りに行く力が求められます。特に情報が飽和している今は、何が正しく必要な情報なのかを見極める必要があります。また、得た情報を処理する力も養っていきましょう。
高い思考力と問題解決力
特にテレワーク・在宅ワークにおいては、すぐに相談できる誰かが隣にいるわけではありません。自分で課題を見つけ、解決に導ける高い思考力と問題解決力が求められます。
働くための環境整備
個人も企業も、ニューノーマルな働き方に対応するための環境整備が必要になります。特にテレワーク・在宅ワークにおいては、仕事に適したスペースを確保し、快適なデスクやチェアを使用することで、業務効率が向上します。
具体的な環境整備のポイントは下記でも詳しく紹介しています。
在宅ワーク・テレワーク環境を整えるには?ガイドラインから考える理想の環境
ニューノーマルな働き方の今後
ニューノーマル時代は、持続可能な個人・企業・社会を実現することが求められます。ニューノーマルをリードするであろうテレワーク・在宅ワークによって、一人ひとりがワークライフバランスを豊かにし、自己実現に向き合えるように。そして企業は、情報通信環境の整備を基盤として、組織風土、業務、労務管理制度、オフィスなどの革新・改革を推進し、企業としてのBCP確保・競争力を向上させていくことでしょう。
まとめ
コロナ禍では、「ニューノーマル=新しい日常」が生まれました。ニューノーマルの象徴であるテレワーク・在宅ワークには、仕事の効率向上や時間を有効に使えるなどのさまざまなメリットがあります。また、オフィスワークと併用するハイブリットワークも選択肢となり、より働き方は多様化していきます。個人も企業も変化に適応する力が、ますます必要となるでしょう。