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長井さん、創造性を高めるにはどんな働き方が理想ですか?

長井さん、創造性を高めるにはどんな働き方が理想ですか?

2014年からソフトバンクのロボット「Pepper」の開発に携わり、現在はAIやVRなど先端技術を使ったコンテンツ制作を行うワントゥーテンの最高技術責任者 ( CTO )、長井健一さん。未知の世界を形にするための工夫や、今後期待される技術について伺いました。


長井 健一
株式会社ワントゥーテン 取締役副社長 兼 最高技術責任者

SFに出てくるような近未来体験を

――これまでのお仕事と現在の活動について教えてください。

大学卒業後にデザイン会社「ワントゥーテンデザイン」に入社、クリエイターとしてさまざまなブランドのデジタルコミュニケーションを担当しました。2015年にはロボットテクノロジーを扱う「ワントゥーテンロボティクス」を設立、現在は先端技術を使ったクリエイティブ集団「ワントゥーテン」の取締役副社長 兼 最高技術責任者として経営に携わっています。

当社を一言でいうなら「近未来を実現するクリエイティブ集団」。この数年は「ドラゴンクエスト」シリーズを題材にしたVRアクティビティ「ドラゴンクエストVR」や、車いすレースをVRで体験できる「CYBER WHEEL(サイバーウィル)」など、精度の高いxR(AR、MR、VR)技術の開発や制作を行っています。またAIでは、機械学習を活用したプロジェクトがいくつか進んでいます。5年先くらいには、きっとSFに出てくるような体験を提供しているんじゃないかなと思っています。

――ワントゥーテンは京都で創業し、京都と東京の2拠点で制作をしていますね。

関東と関西の優秀なスタッフを集められるので、メリットは大きいです。ただ、拠点が2つなのでコミュニケーションのロスは感じます。ほぼ毎日、テレビ会議で会話を重ねていますが、クリエイティブについては細かなニュアンスが伝わりづらかったり、クライアントに臨機応変な対応がしづらかったり。リモートワークは、作るものが完全に見えていて、タスクがきちんと割り当てられる場合に成立しやすいと実感しています。

インタビュー風景

月20日のうち1日は、作りたいものを作る

――これからは、xRやAIなどの先端技術が仕事をサポートしてくれる時代です。そのとき人間にはなにが求められるでしょう?

2012年にアドビが日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスで行った5000人規模の調査によると「世界で最も創造性がある国」のトップは日本だったそうです。しかし、当の日本人は「アメリカ」と答える人が多く、「創造性に自信がある」と答えた人はわずか19%でした。また2014年に出版された『クリエイティブ・マインドセット』(デイヴィッド・ケリー、トム・ケリー著、日経BP)には、子どものころはいろいろな絵を描くのに、年をとるにつれて他人と比べはじめ、クリエイティビティに自信を失くす人が多いと書いてありました。

AIが進化すると、人間は創造性を発揮し、知的労働をせねばなりません。なのに、「新規事業のためにさまざまな部署から人を集めたが、いいアイデアが出ない」などの話はよく聞きます。私たちはこのような企業に創造性を養うワークショップを行っていますが、創造力をうまく発揮できない人たちにより適切な解決法はないか、常に考えているところです。

――御社では、社員の創造性をアップさせるために、どんな取り組みをしていますか。

ビジネスを考えるときは、マーケットインとプロダクトアウト、もちろんその両方の観点で考えています。後者については、うちは作り手が多いこともあり、自分たちが作りたいものを作ってから、次に売ることを考えることも多い。月の就労日である20日のうち、1日は好きなものを作る時間に充てることを認めていて、それらを2ヶ月に1回程度、社内で共有し、ビジネスにつながらないか検討する。この仕組みを「シード」と呼んでいますが、創造性の向上に寄与していると考えています。

CYBER WHEEL

たとえば、前述した「CYBER WHEEL」は、点で構成されるサイバー空間の街並みが見どころの1つです。これは実際の街を3Dスキャンする技術を応用していて、このアイデアはシードから生まれています。

また、毎週ではありませんが、水曜日には社内勉強会「アカデミー」を開催しています。先日は、ミラノサローネ国際家具見本市の内部報告会を行いましたし、ゲストに講演していただくこともあります。

――まずは作りたいものを自由に作ったうえで、どう生かすかを考えるのですね。

はい。あとは、イメージをうまく伝えるため「グラフィックファシリテーション」の手法を意識的に使っています。言葉よりも絵で伝える手法です。私は、エンジニア時代は絵が苦手でしたが、ディレクターになって以降は、下手でも描くようにしています。

AIがアイデア出しをサポートする時代に

――未来の働き方はどのようになると思いますか。

アイデアは通常、自分の枠内でしか出てきません。でも2人いれば思いがけないアイデアも出ますから、AIがその2人目を担えないかと考えています。AIなら頻度高くアイデアを出してくれるかもしれないし、アイデア自体をゼロから考えてくれるかもしれません。実は、数年前からその実現性を技術的に模索し続けています。

xR技術のビジネス利用も増えるでしょう。Magic Leapという会社が2018年、指の動きを認識して、バーチャルな物体を動かすMRグラスを開発者向けに発売したのですが、2019年にはマイクロソフトがBtoB向けMRグラスを発表しました。MR(複合現実)を使って仕事を行う社会が実現しつつあります。

会議室も変わるでしょう。MRグラスを使うと発言が吹き出しのようにテキストで見えたり、自動で議事録ができたり。また会議が終わったら自動的にネクストアクションが提案されたり、遠隔地にいる人があたかも部屋にいるように参加できたり……。そんな「未来の会議室」ができる日も近いでしょう。それこそ、ITOKIさんのようなオフィス家具、設備の会社と協力しながら、我々が体験創造の部分を担っていけたら、絶対におもしろくなるだろうと思っています。

<長井さんにとって「働く」とは?>
働くことと遊ぶことの境界をなくしたい。作り手には、作ることが楽しくて、働いているのか遊んでいるのかわからなくなる時間があります。チーム全体でそうなるときも。こんなときは放っておいてもどんどんクオリティが上がるのですが、現実は「もう予算がないから」「これ以上残業をしてはいけないから」とストップしてしまう。この2つが両立するような良い仕組みはないかと、経営者として模索しているところです。

「働く」と「遊ぶ」 その境界を無くしたい

PROFILE

長井 健一
長井 健一
Nagai Kenichi

株式会社ワントゥーテン
取締役副社長 兼 最高技術責任者

1980年新潟市生まれ。京都大学卒業後、ワントゥーテンデザインへ入社。クリエイターとして、インターネット黎明期におけるさまざまなブランドのデジタルコミュニケーション領域で、最新技術を用いた先鋭的な表現を生み出し、国内外の広告賞を多数受賞。2011年からは最高技術責任者に就任し、ウェブやモバイルからインスタレーションにまで領域を拡大した。ソフトバンクの感情認識型ロボット Pepper は企画段階よりプロジェクトに参画、一般発売の実現に貢献する。 2015年9月から3年間、ロボットやAIに特化した子会社の代表を務め、2018年10月より現職。

※所属部署・役職は取材当時のものとなります
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あらゆるビジネスで活躍するキーパーソンに聞く、あなたにとっての「働く」とは?インタビューを通して多彩な価値観に触れるこのシリーズ。これからの時代に求められる「働く」へと迫ります。