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働き方 レジリエンスと向き合う

今こそ考えたい、
「組織」のレジリエンスとは?

今こそ考えたい、「組織」のレジリエンスとは?

経済学者で国際大学GLOCOM准教授の山口真一さんと、イトーキ 先端研究統括部統括部長の大橋一広さんによる対談で綴る、「レジリエンス」シリーズ第6回。最終回となる今回は、これまで掘り下げてきたレジリエンスの主語を「組織」に発展させ、「組織がレジリエンスを獲得するためには」というテーマでお送りします。

「多様性」の時代。マネージャーがやるべきこととは?

大橋 前回、レジリエンスを高めるためには「多様性」を受け入れることが重要になる、というお話がありました。これはじつは、「ひと」に対してだけでなく、「組織」についても同じことが言えるのではないでしょうか。

山口 そうですね、まさに「組織のレジリエンス」を考えるとき、同じく多様性は重要なポイントになると思います。

大橋 そうするとおのずと気になってくるのが、「メンバーの多様性を活かせるマネージャー」の存在です。そんなマネージャーであるためには、何が必要だと思われますか。

山口 「多様性を活かす」というのは、つまりは「相手を尊重する」ことと根底でつながっています。第4回でもお話ししたとおり、コミュニケーションには「相手への尊重」が欠かせない。いくら属性的に「性別」「年齢」「肩書」など幅広く多様性を持たせた組織づくりをしても、メンバー同志が互いを尊重して相手の言うことに耳を傾けられなければ、本当の意味で「多様性」があるとは言えないと思うんです。

また、この「耳を傾ける」ということも、言うのは簡単ですが実際にはなかなかできない人も多い。たとえば、年上には大人しく従うけれど、年下に対してはとたんにマウントを取りたがる人なんかも、いますよね。

ひどいケースでは、ある懇親会で「女性とは一切名刺交換をしない」人を見たことがあります。非常に残念な思考ですが、「女性は地位が低いから名刺交換をしても意味がない」という決めつけが根底にあるのではないかと思います。

こんな悲しいことにならないようにマネージャーがなにをすべきかというと、大切になってくるのは「心理的安全性」の確保。若い人も男性も女性も、どんな人も安心して発言しやすい、心理的に安全な場を作っていくことです。

大橋 僕も「心理的安全性」は、レジリエンスにとってすごく大事なファクターだと思います。

山口 心理的安全性が確保できていれば、いろいろな人が安心して発言できる。そうしていろいろな人の意見を耳にできるということは、特にマネージャーにとっても非常に有意義なことですよね。たとえば50代のマネージャーが20代のメンバーのフレッシュなアイデアを聞く機会って、日常ではあまりない。こういった交流から学ぶところは多いと思いますよ。

批判をするときも、ただ頭ごなしに否定するのではなく、相手を尊重した上で改善点を述べながら相手の意見を引き出して、建設的な議論をすることが大切ですね。

大橋 そういえば、ある映画監督と以前お会いしたとき、「僕の仕事はみんなが意見を言いやすい場をつくること」と仰っていたのを思い出します。本来は監督にすべての決定権があるものですが、その方は「カメラ」「美術」「照明」「音声」といったプロたちが自由闊達に意見を言いやすい場を作るんだそうです。それぞれのプロたちがアイデアを出し合えるムードに持っていくことが、良い作品に向かう一体感をつくる、と話してくださいました。

山口 その方は、それぞれのプロとしての仕事を尊重して、意見を聞き入れ、能力を引き出そうとしているんですね。

大橋 僕はその監督の仕事方法を体感したことで、こういうことが組織のマネージメントにおいて大きな財産となり、さらにその経験を若い人たちも培っていくことが大事なのだと改めて思いました。

山口 プロへの尊重、というのはとても大きなカギですよね。私がいろいろな媒体で原稿を書く際に編集者さんと一緒に仕事をするのですが、意見を述べることをものすごく遠慮される編集者さんがたまにいらっしゃいます。私からしてみると、逆にプロである編集者を全面的に信頼して、意見を聞きたいわけです。私は研究したりそれについて書いたりすることはできるけれど、「売れる本」のことなどはわからないわけなので……。

でも、おそらく中には、意見されることで怒る著者もいるのでしょうね。それ一つをとってみても、「怒る人」というのはじつは大きな損をしているんですよ(笑)。たとえばこの場合、売れる本を作れる機会を一つ失っているわけですから。

だから、みんなフラットに意見を言い合える場があれば、人も組織も豊かに成長できて、たとえ新しいことが起こっても対応できるようになっていくと思うんです。

大橋 僕はチームの若手も先輩にも、「多様性のあるチームづくり」の大変さを体験してもらいたくて、侃侃諤諤(かんかんがくがく)な議論を歓迎しています(笑)。そうしないと、みんな意見を述べることを遠慮したり、面側くさがったりしてしまう。上司の言うことに「はい、わかりました」って答える会議のほうが円滑なんだろうけれど、僕はそのまま終わっちゃうのが嫌で、ちゃんとみんなが納得して議論して話したかを確認したがりなんですよ。だから、つい会議が長くなってしまうこともあって。後で反省しますが……。

でも山口さんが仰ったように、相手のことを本当にリスペクトして話を聞いて、自分の意見をちゃんと伝えたい、という思いがあるならば、諦めないはずなんですよ。 僕は組織づくりにおいても、自分とは違う意見を求め、歓迎したいですから、まったく違う経験知識や価値観の人と一緒に仕事がしたいですね。そのほうが組織にとって絶対的なプラスになると思う。

山口 議論にもコツがありますよね。学校教育の場では侃侃諤諤の議論がほとんどないこともあって、たとえマネージャーが仕掛けてもなかなか議論にならず、苦労することも起こり得ると思います。

学校教育の段階でお互い尊重し合いながら議論する場をもっと多く持っていくことで、それぞれの多様性を上手に生かす環境につながるのではないかと考えています。

もし「議論が下手」という状況にぶつかったとき、それを打破するために大切なことが2つあります。1つは、批判が必要なときも人格攻撃は決して行わず、相手を尊重した上で「意見を批判」すること。

もう1つは、自分が批判される側のときに、「人格が攻撃されている」と思わないこと。意見のぶつけ合いは、人格否定とは全く異なるものです。

ここでも大切なのは、やはり「尊重」。お互い尊重しあいながら議論する場をもっと設けることによって、それぞれの多様性を上手に生かすことができると思います。

インタビュー風景

◇  ◇  ◇

レジリエンスについての興味深い対談も、今回で一旦最終回。
「相手のために思いやりを持って尊重することが、自分のレジリエンスを育むことにもつながる」と考えると、なんだか毎日の気分も変わってきそうですよね。

まずは今日1日、自分と相手を大切に意識して過ごしてみる。そんな小さなことから、大きな変化は始まっていくのかもしれません。

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受けたダメージを回復したり、環境へ柔軟に適応するしなやかな状態をつくる「レジリエンス」。何が起こるか分からないこの時代だからこそ、注目が集まるレジリエンスにとことん向き合います。