トップに戻る
働き方 レジリエンスと向き合う

新しい働き方に「なじめる人」と
「なじめない人」の違いとは?

新しい働き方に「なじめる人」と「なじめない人」の違いとは?

2020年は働き方や生活までが一変し、私たちはニューノーマルな時代へと歩き始めました。そんな中、苦難に対してしなやかに順応するための力「レジリエンス」に注目が集まっています(レジリエンスについては、前回記事で詳しくご紹介しています)。

個人は、そして組織はどのようにレジリエンスと向き合い、獲得していくべきなのか。今回からは、このテーマについて専門家にお話を伺っていきます。

お話を聞かせてくださるのは、経済学者で国際大学GLOCOM准教授の山口真一さん。テクノロジーが発展するにつれ、これまでの常識が通用しなくなることが増えた今、社会や企業はどのように進んでいくべきか。そういったことを、統計学や数値データに基づく「定量的分析」によって研究されているスペシャリストです。
ネット炎上が起こる理由について、人々の行動をデータから分析した『正義を振りかざす「極端な人」の正体』(光文社新書)など、さまざまな著作を発表。テレビをはじめとした多くのメディアで活躍されています。

聞き手は、次世代ワークスタイルのコンセプトデザインなどを手がける、イトーキ 先端研究統括部統括部長の大橋一広さん。ともに「これから」の社会を見つめる2人からは、どのような話が広がっていくのでしょうか。

インタビュー風景

新しい働き方になじむための「4つのポイント」

大橋 コロナ禍でテレワークが一気に普及し、働き方が劇的に変わったことで、多くの方が「戸惑い」を感じています。例えば、社内のコミュニケーション量が大幅に減ったことで、「対面していたときには見えやすかった部下の様子が分からなくなった」「上司に相談しづらくなった」といった、マネジメントの難しさについての声がよく聞かれますよね。

そこで注目されているのが、しなやかな強さを表す「レジリエンス」。ダメージを受けてもすみやかに回復し、環境に合わせて自分を変化させていく力です。このレジリエンスが高ければ、スムーズに新しい働き方や環境に適応できるはず。でも、それを高めるにはどうしたらいいのでしょうか?
そして、レジリエンスが「高い人」と「低い人」には、どんな思考の違いがあるのでしょうか?

山口 そうですね。まず前提として、このコロナ禍での変革はこれまでの世界観がガラリと変わったわけではなく、「もともと起きていた変化が、急速に進んだ」ものと考えています。どういうことかというと、コロナショック以前から「産業社会」から「情報社会」へ徐々に移行していたのが、これをきっかけに一気に進んだ。つまりコロナがなくても、いずれ起こるであろう変化だったわけです。

ただ、その変化の速さになじめる人となじめない人がいるわけですね。それがすなわち、新しい働き方に「なじめる人」と「なじめない人」として表れているんです。では、その違いは何なのか。そこには4つの「思考の違い」があると考えます。いわば、新しい働き方になじむための「4つのポイント」といってもいいですね。

大橋 4つのポイントですか?

山口 はい、そのキーワードをざっと挙げると、

1つ目は「新しい環境や技術に対して、ポジティブかどうか」
2つ目は「主体性をもった働き方」
3つ目は「『やり方』や『方法』の考え方」
4つ目は「相手への尊重」

です。
まずは、1つ目の「新しい環境や技術に対して、ポジティブかどうか」についてご説明していきますね。人間は、長く同じ環境にあると「新しい環境や技術」に対してネガティブになりやすい、という傾向があります。実は、過去に私の研究チームで実施した実証研究では、「勤続年数が長くなると創造性が下がる」という傾向が明らかになりました。経営学の他の研究でも同様の傾向が見られています。

大橋 それは、意外に感じる方が多そうですね。

山口 そうですよね。私は過去に、農業とITの関係についても研究したことがあり、農業に従事する年数が長い人ほど、ITの利用率が低いということがわかりました。一方、60代まで別の仕事をした後に農業へ移行した人は、ITを積極的に活用する割合が高かった。経験年数が短い人は新しいやり方にポジティブである、という状況が見えてくるわけです。

これをコロナ禍での変化に置き換えると、勤続年数の長い人はこれまでの習慣にこだわってしまい、どうしても対応しにくい部分が出てくる。一方で、勤続年数の短い人は習慣にとらわれずに対応できることが、仮説として考えられます。このことから、ある程度の新陳代謝を意識すること、また新しい環境や技術に対してポジティブであることが、個人としても組織としても大切だと言えるんです。

大橋 なるほど。私はオフィスのあり方や働き方と創造性の関連について研究をしているんですが、これまでなかなか進まなかったテレワークなどがこのコロナショックで一気に進んだことを「チャンスだ」と捉えられた人は、「イノベーター気質」が高いのではないかと感じています。ただ、世の中には職種としてテレワークができない方もたくさんいますよね。

山口 はい、そういった方たちももちろんいらっしゃいますし、全ての方がテレワークをすれば生産性が上がるかというと、そうではないと思うんです。つまり、ニューノーマルにおいては様々な形が「ミックス」されていく。その中で組織に求められるのは、それぞれがどのような働き方をしていくことがよいのか、一人ひとりを見て柔軟に変えていくことだと思います。

大橋 そうですね、私もこれからは個人がパフォーマンスを発揮しやすい働き方を選べる時代になると思います。アメリカでも、かつて在宅勤務が流行った時期がありました。しかし、対面的な創造活動の有効性とのジレンマから、揺り戻しがあって、シリコンバレーなどのIT企業は再びオフィスに戻った経緯が過去にはありました。日本はコロナ禍で分散リモート型になりましたが、今後、揺り戻しがあるかもしれません。そうなった場合、個人はどのような「働き方」や、「仕事環境」を選択するのか。集合して協調したり、分散してリモートワークしたりと、柔軟で多様な働き方が求められます。また、企業は、総合職を前提とした日本的な「パートナーシップ型雇用」を続けるのか。それとも自律して分散しても成立する欧米型の「ジョブ型」に変わっていくのか。はたまた2つをうまくミックスした「新しい日本様式のジョブ型雇用」を模索するのか……。 山口さんはどう思われますか。

山口 それは、どの企業のマネジメント層も迷っているところですね。おそらくこの状態が1~2年続く中で、「新しいジョブ型雇用」に移行していくと私は考えています。

インタビュー風景

◇ ◇ ◇

2人の話は、未来までも見据えてどんどん広がっていきます。
次回は、新しい働き方になじむための「4つのポイント」の2つ目「主体性」について、詳しくお話を伺います。
ニューノーマル時代をしなやかに駆け抜ける秘訣、ぜひご覧ください!

カテゴリー
働き方
タグ
レジリエンスと向き合う

レジリエンスと向き合う

受けたダメージを回復したり、環境へ柔軟に適応するしなやかな状態をつくる「レジリエンス」。何が起こるか分からないこの時代だからこそ、注目が集まるレジリエンスにとことん向き合います。